新型コロナウイルスの感染拡大防止対策として、日本では2020年春からリモートワークが一気に広まりました。
通勤ラッシュの回避や通勤時間の減少、オンラインでお客様とのやりとりができるメリットがある反面、新たな課題も浮き彫りになってきています。
実際、コミュニケーションが減った影響で、多くの会社で"コロナ疲れ"が発生しており、出社とリモートを組み合わせた、ハイブリッド型の働き方が検討され始めています。
このような背景で、リモートワークのコミュニケーションをどのようにマネジメントしていけばいいのでしょう。マネジメントやリーダーシップ論の著書がある、人事戦略コンサルティング会社「セレブレイン」社長の高城幸司氏に話をお聞きしました。
リモートワークのコミュニケーション不足で起きている困りごとは?
「リモートワーク」は、もともと働き方改革の推進や「東京2020オリンピック・パラリンピック」の交通混雑対策として、総務省や厚生労働省などが連携しながら普及を進めてきたものです。ところが新型コロナウイルスの感染が一挙に拡大。政府や自治体が不要不急の外出自粛を要請し、多くの企業が導入に踏み切ったという背景があります。
「ちょっと来たので」「ちょっといい?」
カジュアルな声かけができない
いまはまだリモートワークにおける、さまざまなエラーやトラブルが発生している過渡期。コミュニケーションについても細かい問題が起きていると思います。
たとえば、営業なんかだと「ちょっと近くに来たんで」という感じで顔を出すことができなくなりました。コロナ前なら「ちょうど良かった、いま相談したいことがあって」となり、仕事につながることもあったのですが、コロナ禍ではそれができなくなった。カジュアルなコミュニケーションや情報交換ができなくなったのは、営業周りの人間には大きな痛手となっています。
マネジメント層の悩みも多くなりました。
コロナ禍では、出社する人と、出社しない人がいて、勤務形態がバラバラです。上司は誰がどこで何をしているかを把握しなければならず勤怠管理が大変です。また何か話をしたいときも、コロナ前のように気軽に「少しいいかな?」と声がかけられなくなりました。ZOOMでスモールミーティングをやるとなると、スケジュール調整が必要になるので、こういう細かいタスク分割が苦手な人はストレスになっています。
一方で「急に仕事を振られることがなくなり効率がいい」という社員もいます。
社内で上司がかける「ちょっといいかな?」は便利な言葉でしたが、これも本当に適切な声がけだったのか、部下にとって心地よいことだったのか疑問は残ります。物事は見方や考え方によって常に評価が変わります。こういう時期だからこそ、細かい部分を整理していくのは大切なことなのかもしれません。
メンバーの働くリズムやメリハリのために、取り入れやすい共通ルールは?
簡単なコミュニケーションガイドラインを取り入れる
ではリモートワーク時のコミュニケーションを円滑にするには、何から手をつければいいでしょう。まずは簡単なガイドラインを決めたほうがいいと思います。
たとえばうちの会社だと、必ず画面に上半身が映るようにしています。顔だけだと、手元でキーボード打っていたり、話を聞いていないことがあったりするので、やはり上半身まで映して前向きに仕事をしている姿勢を示したほうがいいです。
ほかにも挨拶のときはお辞儀をする、終わるときは手を振る、相手にもっと話を進めてほしいときは小まめにうなずき、終了時は大きくうなずくなどを取り入れています。各職場で簡単なルールやエチケットを決めておくのはいいと思います。
仕事はじめのチェックイン、
終わりのチェックアウトでメリハリ
もうひとつ大事なのが、スタートとゴールのメリハリをはっきりさせることです。
自宅に集中できる環境があればいいのですが、たとえば赤ちゃんがいる、奥さんも在宅で仕事をしていて部屋がひとつしかないなどの状況が続くと、仕事とプライベートの切り分けができなくなります。仕事をはじめる「チェックイン」、仕事が終わる「チェックアウト」を設定すれば、チェックインすることで「身だしなみはちゃんとしよう」とケジメがつくようになります。
そういう節目をさらにはっきりさせるため、昔ながらの朝礼や夕礼を取り入れている職場もあります。コロナ禍で、日常会話が減った社員もいますよね。朝礼時に各自に1分間、話をさせたりすれば、孤立化やうつ病の対策にもなりますから。「何でもいいから話して」だと逆に話しづらいので、「昨日あったおもしろい話をしてみてよ」など話しやすいテーマをお題として用意するのがコツです。
仕事ぶりが見えないリモートワーク、疑心暗鬼や不安をどう解消する?
リモートワークについてのアンケート調査を見ると、上司は部下に対して「ちゃんと仕事しているのだろうか」という不安を抱き、部下は上司に対して「ちゃんと評価してもらえるのだろうか」という不安を持っています。お互いが疑心暗鬼なんです。でも、実際の現場でよく聞くと「彼らはしっかりやっている」と信じる上司もいて、ちゃんと自己管理できている部下も多いんですね。
そうは言っても、お互いが見えない状況で行わなければならないリモート下での勤怠管理は悩みが尽きないと思います。みなさんが知りたいのは「上司はどんなコミュニケーションで、部下のモチベーションをマネジメントすればいいのか?」ということですよね。
マネジメント層はサポート役。
疑り深いコミュニケーションはNO!
私の考えでは、マネジメント側は性善説に則ったポジティブな言葉を伝えるのが大事です。
部下からすれば、「ちゃんと仕事をやっていないと思われているのではないか...」と不安を感じているので、上司がそれをさらに醸し出すと関係が破綻してしまいます。
たとえば「スケジュール空いているけど、何やるの?」「今日何件行くの?」という問いかけ方だと、部下は「ああ、自分は信用されていないんだな」と感じて嫌な気持ちになると思います。オンラインではやはり「信頼している」ということを、ポジティブワードを使って部下に伝え、部下のモチベーションや主体性を醸成させ、安心して働けるようなサポートをしたほうがいいと思います。
できれば、自然な形で部下のサポートに入るようにしたいです。
「悩んでいることがあればどんどん支援していきたいと思っている。だから聞くけど」というように、部下の仕事をスムーズにする、応援するために聞いているということをしっかり伝えたうえで内容を理解してあげるのがいいですね。「今日の訪問を有意義な時間にしてもらいたいと思うんで、どんな事やるか教えてくれる?」というように、ちゃんと上司がどう知りたいのか伝えれば、部下の意識やモチベーションも大きく変わってくると思います。
「どういう状況か」「何をしたいのか」
部下にも相談力が必要
もちろん部下の方も努力が必要です。
部下の中には、上司に相談したいけど「漠然としていて何を相談すればいいかわからない」という人もいます。これはもう単純に整理整頓して人に物事を聞く「相談力」が足らないということです。「何を教えてほしいのか」「アドバイスがほしいのか」など、部下には具体的に何を求めているのかをちゃんと整理して伝えるようアドバイスしてください。
ちなみにポジティブワードを伝える際はZOOM会議のときなどに口頭でさらっという程度にしてください。文章に残すと独り歩きして「部長が言ったことがプレッシャーになった」など、こちらの意図とは反対のネガティブなエビデンスになる場合がありますから。
「置き去り」「野放し」を心配する部下をサポートするためにできることは?
リモートワークでは、部下を四六時中チェックする「過剰管理」も疑問視されています。
一方で上司からの声がけが少なくなり「置き去りにされている」「野放しになっている」と不安を抱く社員もいます。最近のパルスサーベイ(従業員満足度の意識調査)を見ると、若い人からは「しっかりマネジメントしてほしい」という声が結構あがっています。
仕事の特徴をふまえた気配りと目標の共有
マネジメントをする側は「わかりづらいことがあればチェックするからね」と、部下たちの先回りをして言いやすい雰囲気をつくったり「どんなことに悩み、どんなサポートが必要か」を想像して部下に投げかけたりする工夫や気配りが大切なのかと思います。
もうひとつ、心配の種を取り除きたいのであれば、やはりゴールをしっかり設定することです。ちゃんとチェックインして「今日の目標」を共有し、アウトプットが何なのかをしっかり決めておく。大事なのは、最終的なアウトプットです。それでも上手くできなかった場合は「なぜできなかったのか」をちゃんと検証すればいいです。「目標がどうだったのか」をちゃんと確認できていれば、お互いに信頼し合えるんじゃないかと思います。
心を開いたコミュニケーションがカギ
一応リモハラ(リモートハラスメント)にも注意してください。部下と話をするときは、相手がリラックスしやすいよう、ゆっくりうなずき、笑顔を絶やさないようにしてください。無表情だと睨んでいるように見えたりするので、しっかり口角を上げて意識して笑顔をつくるのがポイント。そのほうが画面越しでも表情が伝わりやすいです。身振り手振りを使って「グッジョブ」と親指を出したり、指でOKサインを示すなどもいいと思います。相手に胸襟を開いてもらえるようなスタンスを示すことがリモート時のコミュニケーションでも重要になると思います。
部下の体調不良について、どのように察してどうアドバイスすればよいのか?
リモートワークならではの疲労感は想定して声かけ
コロナ前の職場なら、社内をさりげなく観察し、顔色の悪そうな部下に「体調はどう?」と声をかけることができたと思います。ところがリモートワークだと、画面に映った姿や声の様子で体調不良を判断するのは難しいです。対策としては、ある程度「テレワーク時に起きるであろう体調不良を想定して声がけをしていく」ということかなと思います。
長時間のパソコン作業や運動不足による肩こりや腰痛、眼精疲労をはじめ、孤独感からメンタルをやられてしまう人もいます。1on1ミーティングで部下の変化に気づいたら、本題前のアイスブレイク(雑談)で「最近、俺も肩こりがひどいんだけど、君は大丈夫?」というように自分のことを例にあげながら問い掛けてください。仕事の話の後だと「じゃあそういうことで」で終わりがちなので、できれば本題に入る前に話す方がいいと思います。
別途時間をつくってあげることも必要
もし「メンタル面でしんどい」ということならば「そうだよな、わかるよ」と話を聞いてガス抜きしてあげるか、あまりにもひどいなら病院を紹介する必要性も出てくるかもしれません。リモート会議中に、もし顔色が悪い人がいた場合は、別途に時間をつくるか、メールで声をかけるのがいいでしょう。会議中、みんなの前で「大丈夫か?」と聞いても、部下は「はあ、大丈夫です」と答えてしまいます。この辺りも配慮してあげてください。
コミュニケーションを深めるにはやはりオフラインのほうがよいか?
リモートワークが多くなる中で「それでもオフラインも大事ですよね?」という質問をされることがあります。これはコロナの騒ぎが落ち着いてからの議論になると思います。
しかし、たとえ今後コロナが終息したとしても、働き方自体はコロナ前に戻ることはないと思います。コロナの初期のころ、いち早くリモートワークを取り入れた企業が紹介され、ITベンチャーだけが新しい働き方に対応しているように見えましたが、いまはどの企業も「うちは上手くやっています」と言い切れないのが本音なのではないでしょうか。
イノベーションを生み出すにはリアルが有利。
それぞれの良いところをうまく使って
ただ、アフターコロナの社会のことを考えていくのは大事だと思います。
基本的にオペレーショナルな作業(Excel入力やバグチェックなど)は、リモートでも十分対応できることがわかりました。一方で「オープンイノベーションで新規事業を考える」など、長い時間をかけてコミュニケーションを積み重ねる取り組みは、やはりお互い顔を突き合わせて作業をしたほうがよいと考えられています。
いまは誰もが、未曽有の状況に合わせて試行錯誤しながら働き方を進化させている途中です。コミュニケーションについても、エラーやトラブルを乗り越えながら議論を積み重ね、改善策や新たな方法論を生み出す努力を続けていく必要があるんだと思います。
1986年同志社大学文学部卒業後、リクルートに入社。6期トップセールスに輝き、社内で創業以来歴史に残る「伝説のトップセールスマン」と呼ばれる。
1996年には日本初の独立/起業の情報誌『アントレ』を立ち上げ、事業部長、編集長を経験。その後、株式会社セレブレイン社長に就任。その他、講演活動やラジオパーソナリティとして多くのタレント・経営者との接点を広げている。著書に『トップ営業のフレームワーク 売るための行動パターンと仕組み化・習慣化』(東洋経済新報社刊)など。